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膝枕

 【人恋しい】ひとこいし・い ―こひしい(形)
 何となく人に会いたい、人と一緒にいたい気持ちである。

 大辞林 第二版より





 冬の寒さが如何に厳しかろうが空を翔ける少女達には関係ないようで、今日も今日とて弾幕ごっこ。
 湖上の風が荒れ狂い、星と氷が乱れ飛ぶ。

 「当たれ当たれ当たれ、当たれー!!」

 「へっ、そんな温い弾幕じゃあ落とせるどころか掠りもしないぜ?」

 互いの弾幕が織り成す複雑細緻な模様の中を、白黒魔女は木の葉のように右へ左へ、宙返り。
 嘲るような余裕の言葉に冷気を操る氷精もかぁっ、と頬を朱に染め、

 「言ったなー!?」

 叫びと共に白黒めがけて一直線。弾幕の途切れた刹那の間にカードを掲げて飛び出した。

 「お前のそういうとこは嫌いじゃないんだがな、いい加減寒いんでさっさと決めさせてもらうぜ」

 箒に跨る白黒魔女は、懐から小さな八卦炉を取り出すと目前に迫った氷精に向けて狙いを定め、
ニヤリと不敵な笑みを見せる。
 二人のスペルカードがぶつかるその瞬間、

 「いつも言ってるだろ?」

 手の中の炉から光が溢れ出し

 「弾幕はパワーだってな!」

 直後に轟音を伴って灰色の空を切り裂いた。










 まあ、所謂いつもの幻想郷と言う奴で。
















 「……流石にやり過ぎたかな?」
















 そんな呟きも、澄んだ空気に溶け入った。




















 ――人恋しくなる時と言うものは、大抵誰にも訪れるわけで。

 例えばそれは、ふと孤独を感じた瞬間だったり――














 ・ある氷精の場合







 彼女が目を覚ますと、そこにあったのは見慣れた高い空ではなく低い低い天井であった。
 体を起こしてぐるりと部屋を見回してみてもやはり記憶にない。
 しかし、灯りの無い部屋を薄暗く照らす光が障子から漏れていたので、かけられていた毛布を剥ぐと
迷わず布団から出て、そこで自身が着ているものまで見知らぬ物であった事に気付く。
 ちなみに氷精の体躯には大いに余る物である。
 とは言え、そんなことを気にする氷精でもなく障子を開けてみると、じんわりとストーブに温められた空気と
灯油の匂いに眉を顰め動きを止めた。
 そんな中で視界に映ったのはやはり薄暗く埃っぽい、変な部屋だった。
 入り口と思われるドアからこっち、謎の物体がそこかしこに積まれ幾つもある棚の中まで占領しており、
そこから一段上がった手前のところで小さな灯りを頼りに作業台に向かう男が一人。
 彼は氷精に気付いたのか作業の手を止めると首だけを動かして振り向いた。

 「起きたか。 まあもう暫く掛かるだろうから待っててくれ」

 だが、それだけ言って暫し彼女を観察するように見た後、何事もなかったかのように作業に戻る。
 男の態度に氷精は変な住処にお似合いの変な奴だと思っただけだったが、彼の手元を見てにわかに色めき立った。

 「あーっ! それあたしの服! 何であんたが持ってんのよ!」

 男の側には青いワンピース(だったもの)。 作業台の上にはそれを模したと思しき作りかけ。
 そんな物には目もくれない氷精の怒りに応じて周囲の空気は凍りつき、勢い余って氷柱が数本宙に浮く。
 一触即発、下手な言葉を吐けばあわや串刺しというこの期に及んで男はやれやれと如何にも面倒くさそうに振り向くと、
眼鏡の奥の金の双眸を光らせて口を開いた。

 「君が何に腹を立てているのかは知らないが、それを僕に向けるのは筋違いだろう。
 第一恩人に仇を返すなど無礼にも程がある。
 妖精と言うのは学が無いと聞いてはいたが、礼儀も知らないようだな」
 「あんたに恩を売ってもらった覚えはないよ。 それからあたしは馬鹿じゃない!」
 「それはどうだか。寝床を貸してやった上にダメになった服の代わりを仕立ててやっていると言うのに、
それでも君は僕に恩がないと言い張るかい?」

 これには氷精も口を噤んだ。 だがここに来るまでの経緯が分からず首を傾げると、男は仕方が無いと言いつつ溜め息一つ。
ぶっきらぼうに語り始める。
 曰く、白黒の魔女が湖上の決闘にて得意の恋符で氷精を吹き飛ばしたまでは良かったが、見れば氷精は服もボロボロでピクリとも動かない。流石にやり過ぎたと思った彼女は氷精を抱えてここまで来ると、ただの布切れと化した服と下着姿の氷精を押し付けそそくさとどこかへ飛び去ったらしい。
 そこまで聞いて憎き白黒に再び怒りを募らせたが、目の前の男に露骨に嫌な顔をされて寒くなるから外へ行けと言われ、渋々抑えて消沈させると男は安堵の息をついて再び作業台に向かった。










 静かにしてろと釘を刺されては元気が取り得の氷精としては退屈で仕方が無い。
 壊さなければ店(驚くべき事にそうらしい)の物を見ても構わないとも言われたが、用途不明の怪しげな商品ばかりで
眺める以外に仕様も無く、半刻もせずに飽きてしまった。

 「ねー霖之助ー。暇なんだけどー……」
 「もう少しで仕上がるから、飴でも舐めて大人しくしててくれないか」

 言いつつ懐から飴の包みを一つ取り出すと、氷精の手元へひょいと投げる。
 にべもない店主に非難の視線を向けてはみるがその先が本人の背中では如何ともし難く、
諦めて受け取った飴を口の中に放り込んだ。
 たちまち広がる優しい甘味に思わず頬が綻ぶも、持て余した時間は潰せない。

 諦めて何の気なしに日当たりの悪い雑多な店内を見渡せば、窓から差し込む色味がかった陽の光が
静まり返った店内を緩く照らし出し、言いようのない寂寥感を漂わせていた。
 商品が多い所為で手狭に感じるが、実際は店舗と言うこともあってそこそこの広さがあるので
余計に端まで光が届かず薄暗くなり始めている。
 居心地の悪さを感じて振り返ってみても、氷精の存在を無き者としたかのように黙々と針を操る店主の背中。
 そこにふと、焦燥に似た何かが氷精の胸へと去来する。
 それに釣られ店主の側に座り込むと、おずおずと服の端を握り締めた。

 「どうかしたのかい?」
 「……何でもない」

 真意を量りかねた店主は怪訝そうな顔で俯く氷精を見ていたが、やがて己の作業に戻った。
 氷精にしても自分が何でこんな事をしているのか分からないので、問われても答えようがない。
 ただ、この無愛想な店主の側を、触れたところから伝わる体温から離れたくはなかった。
 そのままでは他にする事もないので自然と店主の繕い物を眺める事になるが、それは氷精にとって
見ていて楽しいものでもない。
 いつしか氷精の意識は朧になり、こくりこくりと舟を漕ぎ始め――


















 針を扱う店主の動きは淀みない。
 すっかり針子としての腕が上がってしまったと苦笑を洩らすが、経緯を考えると些か複雑である。

 そう言えば、と繕う手を止めることなく氷精の元々着ていた服の残骸にちらりと目をやった。

 ここまで手酷くやられたの初めての事かも知れないが、氷精との弾幕勝負自体は日常茶飯事だと
魔理沙からは聞いている。だとすると服が破れたりするのも一度や二度では済まない筈だが
その度に香霖堂へ持ち込まれたという覚えはないし、人里で頻繁に妖精の窃盗が行われているとの噂も耳にしない。
 そうなると自分で直しているか、他の誰かに頼んでいるという事になる。
 この氷精がそんなに器用だとはとても思えないので、誰か腕の立つ知り合いでもいるのだろう。
 西洋には人が寝ている間に仕事を手伝うと言う殊勝な妖精がいると何かで読んだ記憶があるので、
そう言った類が幻想入りしていても不思議ではない。
 自身の思い描く妖精像では腕前の方に疑問が浮かぶが、渡りがつけられれば今後役に立つ事もあるだろう。
人の仕事を手伝うくらいなので人間を嫌う事もなさそうだ。
 半妖の身ではどうだかわからないが、機会があるなら会ってみるのも悪くない――などと手を動かしながら考察に没頭していた時である、

 ぽす。

 軽い音と共に腕に何かが当たった。
 何事かと振り返ってみればそこにあったのは安らかに息を立てる氷精の寝顔で、そのまま膝の上へとずり落ちる。
 成る程、退屈が過ぎればそうなるかと、珍しく店主は素直に頬を緩ませた。
 氷精のあどけない寝姿を見ているうちに、いつも店内を騒がしくする客ならぬあの少女達も、眠りに付く時にはこのように無垢な顔をしているのだろうかとついつい考え、知らず作業を止めた手を氷精の頭に乗せる。すると、

 「ん……」

 僅かな違和感に気付いたらしい氷精が小さく呻いて目を開き、見下ろす店主と目が合った。

 「悪いね、起こしてしまったかな?」
 「あ」

 言いつつ引いた店主の手を名残惜しそうに見つめる氷精。

 「何だい?」
 「手……」
 「手?」

 自分の手がどうかしたのかと、首を傾げて見る店主。
 鈍い。
 この男、実に鈍い。
 しかし自分に素直な氷精は、この程度では怯まない。

 「その…………も、もっと撫でてもいいのよ?」

 そんな幼い願いには朴念仁も微笑まざるを得なかった。
ひんやりとした柔らかい髪に手を滑らせ優しく撫でれば氷精は恥ずかしそうに、けれどもそれ以上に気持ち良さそうに目を閉じる。 その満ち足りた表情に穏やかな笑みを返し、店主は丁寧に髪を梳くようにその感触を楽しみながら
幼子をあやすような手つきで氷精が深い眠りに落ちるまで小さな頭を撫でてやった。















 夕暮れ時の香霖堂。ストーブの穏やかな温もりに包まれた店内に小さな寝息が静かに響く。
 規則正しい呼吸の音に氷精が寝付いたのを悟ると最後に一撫でし、店主はさて仕上げだと
台の上の布と針とを手に取った。

 その腕の下では、店主の膝を枕に幸せそうな笑顔で眠る氷精がいる。








 しっかりと店主の服を握り締めながら。

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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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ネットの片隅で主に東方Projectの二次小説を書いている小物。
その癖同人に手を出そうとしたり生放送したりと割りと生意気。

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