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続々・膝枕


 ――とは言え誰もが素直に出来る事でもないというのも事実。

 のはずだが、それもあくまで一般論でしかなかったようで……



















 ・白黒と紅白の場合



 はらり、とページを捲る音が嫌に大きく聞こえる。
 冬の間ほぼ毎日寒さと奮闘してくれたストーブも、今は少なくとも日中に火を入れる事はない。
 朝晩はまだ冷え込む事もあるが、日中は柔らかい陽射しが程好く空気を緩ませるので非常に快適な気候と言え、
どちらかと言うとそろそろ倉庫に仕舞おうかと思っているところである。

 はらり、と読み終えたページを捲る音だけが再び店内に響いた。 何故か非常に居心地が悪い。
 いやまあ、原因は明らかなのではあるが。

 ……店に来た時はいつも通りだった、と思う。
 流石に毎日来るわけでもなく、また来たとしても殊更変化がないかつぶさに観察することもないが、
数日前もいつもと変わりなかっただろう。
 しかし今日の彼女は半ば指定席となりつつある壷の上に腰掛けると、そのまま黙ってじっとこちらを
見続けているのだ。
 誰かに凝視されながらの読書と言うものは存外に集中力を削がれるものらしく、先程からすぐ傍の魔理沙の気配が妙に気になって仕方が無い。
 まあこれは彼女がいつも騒がしくしていると言う事が関係しているのだとは思うが……

 ――仕方が無い、何か用があるのかも知れないし本を続きを読むのはとりあえず一時休止とするか。

 そう思い店主が栞を挟んで本を閉じた、その瞬間だった。



 「やっぱり考えていても埒が明かないな」

 白黒の魔女は勢い良く立ち上がると腰に手を当て、偉そうに告げる。

 「香霖、ちょっと立て」
 「あ、ああ……」

 促されるままに立つと、そのまま回れ右をさせられた。

 「一体何なんだい?」
 「いいからとりあえず居間に行くぜ」

 背中を押されて居間に上がると今度は座れと言われ、釈然としないながらも腰を下ろす。

 「ちょっと膝借りるぜ」

 こちらが返事を返す前に、膝に軽い重みが加わった。 見下ろす店主の視線と、仰向けの白黒の視線が交わる。

 「……さて、どういう風の吹き回しかな」

 やや憮然とした面持ちで問う店主に、同じような顔を返す白黒の魔女。

 「紫の奴が、起き抜けに神社で何か自慢気だったからな。 具合を試しに来てやったんだ」

 ほんの少し記憶を辿り、店主は額に手を当てて呻く。

 「何を言いふらかしているんだあの人は……」
 「何でもいいが、さっきから手がお留守だぜ」

 疲れた表情を滲ませて視線を下げれば不満気な白黒の顔。
 言わんとすることは、分かる。 しかし何となく素直に従うのも癪な気がして渋って見せた。

 「ホラ早く」

 だがここでごねるのもどこか子供っぽい考えのような気がして、諦めて撫でてやる事にする。
 まあ考えてみれば別に如何と言う事でもないし、変に固辞して臍を曲げられるの方が余程厄介でもある。
 軽く溜め息を吐きながらやや癖のある金髪に手を梳き入れた。
 ふわふわと柔らかい手触りが指の間をすり抜けて行く感触は存外に心地よく、また膝の上の白黒も同じようで
はにかんだ笑みを浮かべている。

 「……何だかくすぐったいぜ」
 「なら止めるかい?」
 「それ程でもないな」
 「そうかい」

 素直なのやらそうでないのやら。 苦笑しながら小振りな頭を撫でてやれば、気持ち良さそうに目を細めて
笑って返す。
 大人しくしている分には本当に可愛いものだ。 半妖の店主自身と比べるまでもなく、彼女は人間としても
本来はまだまだ幼いのだから当たり前なのかも知れないが。
 ここまで成長するまでの一体どこに可愛げを落としてきたのやらと、思わず溜め息を漏らすと睨まれた。
 どうやら顔に出ていたらしい。 誤魔化すようにわしゃわしゃ手荒く撫でると抗議の声を上げてじたばた暴れる。

 「霖之助さーん。 ……居ないのかしら?」

 紅白の巫女の声が店の方から聞こえてきたのは、そんなじゃれあいに移行しつつある時だった。
 咄嗟に返事を返そうとして、言葉に詰まる。
 特に人目を憚るような事をしている訳でもないが、喜んで受け入れられる状況でもない。と思う。
 さて如何するか――

 「ここに居るぜ」

 ――などと考えるだけ無駄だったらしい。
 まあ、返事をしなかったらしなかったで勝手にお茶を飲んで店主が戻るのを待ちそうでもある。
 必然的に途中で見つかるのだから、とどの詰まりどちらでも大差はなかった訳で、
刹那の悩みも徒労だったようだ。

 「……何やってるの?」

 ややあって聞こえたのは呆れたと言うか拍子抜けしたと言うか、何とも微妙な声色である。

 「紫の奴が話してたろ。 だから試用中だぜ」
 「あー、そう言えばそんな事も話してたわね。 ……まあ良いけど。 霖之助さん、お茶貰うわよ」
 「駄目だと言っても勝手に淹れるだろう君は」
 「どうせそんな事言わないんだから別にどっちだって良いじゃない」

 そう言い残すと、紅白の巫女は台所へと消える。
 勝手知ったる何とやらで、数分もしない内に清々しい香りを従えて戻ってきた。 手には急須と自分専用の湯飲みを持っている。
 いつもの事ながら馴染み過ぎな感が否めない。
 仮にも他人の、しかも年長者の家なのだからもう少し遠慮や慎みと言うものを持ってもらいたいものである。
 まあ店主とその膝の上の白黒の分の湯飲みも持ってきている分だけマシだと思うことにしようか。

 「それで、具合は如何なの? 実際」

 お茶を一啜りして、紅白が思い出したように言う。
 どうでもいいが、結局自分のにしか淹れないのなら持ってくる意味はあったのだろうか……

 「んー、まあまあかな。 固めだしちょっと高いし……そうだ香霖、もうちょっと脚崩して座布団も退けてくれ」
 「人の膝を借りておいてその言い方はどうかと思うよ」

 などと小言を挟みつつもその意に従う辺り彼もお人好しである。

 「まあ気にすんなよ……お、いい感じだぜ」
 「それはどうも」

 辟易したような口ぶりだが、その手は自然に動いていた。
 ぞんざいに見えて優しい手付きに白黒の魔女がふにゃりと頬を緩ませると、彼女の毛質と相まって
猫が寛いでいる様に見えなくもない。

 「ついでに霊夢もどうだ? こっち空いてるんだしさ」

 不意に、一通り膝枕を満喫し終えたらしい白黒が新たに茶を注ごうとしていた紅白に声を掛けた。
 何を馬鹿なことを……と思って振り向けば、案の定手を止めて目を丸くしている。
 我関せずで居たにも拘らず急に水を向けられて驚いたのだろうが、まあすぐに皮肉の一つでも返すことだろう。
 ……と、思っていたのだが、

 「うーん……」

 僅かに眉を顰め小首を傾げて悩んで見せると、

 「そうね、紫が言ってただけなら兎も角、魔理沙もそう言うんならちょっと気になるわね」

 肯定の意を示した。
 予想外の事態に呆気に取られる店主を他所に、膝の上の白黒が自分の位置をずらしている間に
紅白は頭のリボンを解き、

 「霖之助さん、ちょっと失礼するわよ」

 やはり了承の前に膝の上に陣取った。
 今更ながら彼女らは遠慮と言うものを知らないのだろうか。
 まあ、どうせ反論しようとした所で無意味なのはさっきの事からも良く分かっているので黙っておく事とする。

 「……やっぱり微妙ねぇ」
 「そうかい。 なら退いてくれると嬉しいね」
 「嫌よ」

 即答。
 一体何が紅白の巫女を駆り立てているのだろうか。
 いや、そもそも二人の行動の原因である妖怪の賢者はどういった意図で二人に――

 「物思いに耽るのは結構だがな、まーた手が止まってるぜ香霖」

 ……溜め息を吐くことくらいは許されてもいいだろう。
 何やら二人の視線を感じるが、そちらの方は極力見ないようにして手を伸ばした。
 左手を紅白の黒い髪に梳き入れると微かに身じろぎするのが伝わってくる。

 「んっ……」
 「……そう言う声を出されると色々と困るのだが」
 「別に、ちょっと驚いただけよ」
 「困るって、何が困るんだ?」
 「君は少し静かにしててくれないかな」

 ニヤニヤと見上げる白黒に軽い頭痛を覚えるが、この位のことを一々気にしてもいられない。
 とりあえずそちらは適当に頭を撫でて無視を決め込み、もう一度紅白の黒髪を撫でる。
 白黒のそれとは違い、しっとりとやや重たい手触り。 しかしどちらかと言うと瑞々しさが感じられ、
指通りも滑らかで悪くない感触である。
 右手に触れる柔らかな質感の髪といい、どちらも手入れが悪いようには思えなかった。
 髪は女の命、と言うのは外の世界の雑誌に書かれていた言葉だった筈だが、そう言うところに気を配っている辺りの少女らしさが何となく感慨深い。

 「何か、妙に手馴れてるわね」
 「そうか? 少なくとも慣れるほど経験している訳ではないよ」
 「その割にはツボを心得ていると言うか、手付きに淀みがないんだが」
 「さあね。 まあ、道具に接する時のようにすれば自然と丁寧にはなるとは思うが」

 その言葉に紅白が形の良い眉を吊り上げた。

 「ちょっと、私の髪を霖之助さんのガラクタ達と一緒にしないでくれる?」
 「ガラクタとは随分な物言いだな。 一度君たちにはきっちりとこの店の道具達の価値について説明を……」
 「分かった分かったその辺はまた暇な時にでも聞いてやるから。 それより霊夢、さっきのは『私達』の間違いだぜ」
 「如何でも良いじゃないそんな事」
 「……まあいい。 ところで、さっきの香霖の言い方だと私達には格別の配慮をしてくれていると聞こえたんだが」
 「…………否定はしないでおこうか」

 苦い顔をする店主に、膝の上の二人は笑い合った。
 その後も何のかんのと茶々を入れてくるが、店主は頑として無言を貫く。
 反応が無くなってしまいからかうのも飽きたのか、いつしか二人も大人しくなっている。

 ふあ……と、店主が小さなあくびを一つ。
 膝の上には小さく寝息を立てる少女が二人。

 気付けば、静かに時間だけが流れていくようになっていた。













 カランカラン……

 「毎度お馴染み射名丸でーす……って、あやや?」

 軽快に響くベルの音と、後に続く元気な声に微睡みの淵から意識が浮き上がる。

 「店主は不在でしょうか……しかし開店の札は掛かっていたし、鍵も……」

 騒々しい来訪者は一人でブツブツ呟きながらカラコロと小気味良い下駄の音を立てて店舗部分を横切って行く。
 夢現にそれを聞いている筈の店主だが、覚醒するまでには至らない。

 「あの御仁は性格的に店を開け放して出かける何て事も無いですし、とすると奥で何か作業でも……っと、
これはこれは……」


 パシャ


 「……人に黙って撮るとは、感心しないな」
 「おや? 起きてらしたんですか。 その割には返事が無かったようですけど」

 楽しげな天狗の声と、対照的に不機嫌そうな声の店主。

 「今起きた所だよ。 ……で、何か用かい?」
 「いえまあ、何かネタになるものはないかと尋ねてきたんですが……思わぬ収穫でした♪」

 目元を指で押しながら、店主はこれ見よがしに溜め息をついて見せた。

 「それは良かったね、いい写真は撮れたかい?」
 「ええ、そりゃあもうお蔭様で。 今度の文々。新聞の一面でも良いくらいに」
 「それはどうも。 では用が済んだのなら帰ってくれないか。 騒がしくすると二人が起きて面倒だ」
 「おやおや、すっかりお二人のお父さんですね」
 「せめてそこは兄と言ってくれ。 と言うか、そういうつもりで言ったんじゃない」

 寝起きなのも相まって一層険しい視線を送るってはみるが、天狗の少女は飄々として受け流す。

 「そうですか? それにしても三人揃って良い絵になってましたよ」

 果たしてそれは喜んでいいのかどうか、店主が微妙な表情を返すと彼女は音も無くその場で浮かび上がり、

 「何はともあれ、お邪魔しても悪いですから今日は早々に退散させて頂きますね」

 そのままそろりと出口へ向かう途中に、ああそれと、と踵を返すと

 「今度は、私もお願いします」


 悪戯っぽいウインク一つ、軽やかに飛び去った。




 後に残るは呆気にとられる店主と変わらず眠る少女二人。
 軽い咳払いで気を取り直すと、視線を下に戻して二人の寝顔を見ながら、何気なくまた髪を撫でててみる。
 どちらもまだまだ起きそうにはないが、特に重さを感じる程のものでもないので別に良いかと嘆息した。

 そして店主は腕を組むと瞑目し、本日の営業は諦めて午睡を貪る事にする。











 表の札を裏返し忘れてたな、などと思いつつ。








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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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ネットの片隅で主に東方Projectの二次小説を書いている小物。
その癖同人に手を出そうとしたり生放送したりと割りと生意気。

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気付いたら投稿していた
そもそも絵が描けないから
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