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膝枕EX

 ――頭に触れると言う行為は、それなり以上の信頼関係が無ければ不快に当たると言う事もしばしば。

 しかし、逆に言えばそれを自発的に許すと言う事自体が、相手への信頼を自分の無意識に刷り込むことにも
なってしまったりする訳で――














 ・膝枕EX 先生の午睡












 香霖堂の店主は不機嫌だった。
 その理由は手元にある文々。新聞の一面を飾る写真の所為でもあるのだが、それ以上に目の前の人里の守護者たる半獣の女性の生暖かい(店主がそう感じるだけで、実際は喜色満面の方が近い)笑顔に因るところが大きい。

 「そんな顔をするな。 確かに意外だったが、私としては喜ばしい事なんだよ」

 そうは言っても店主にとって面白い話ではないので、半獣がどう思おうがこちらが喜ぶ理由は無い。

 「二人とも強いのは知っているが、それでも心配だったんだ。あの歳で一人暮らし……甘えたり我が侭を言えるような相手が傍に居ない、と言うのはな」

 彼女らは確かに一人立ちするにはまだまだ若いし、精神的に成熟してるとも流石に言い難いので半獣の言っている事もまあ分からないでもない。しかし店主自身に甘やかしているつもりも無いので、単に傍若無人な振る舞いとしてしか映らない事の方が多いのだが。

 「その相手をする身にもなって欲しいね。 それに君だって、偶に顔を見に来たと言うんだったら客として来てくれればいいものを……」
 「良い物があればいつでも買うつもりで来ているさ……それにな、実を言うとお前のことも少し心配していた」
 「僕を、かい?」
 「ああ、人間との交流を疎んじて人里から離れこんな所に隠居してるんだ。 心配もするさ」

 半妖とは言え、妖怪と言うものは精神の在り方が存在に大きく影響を与えるからな。 と続けた。

 「生憎と、心配されるほど僕は軟じゃないよ。 あと人里で人と会うのが億劫なのは確かだが、隠居とは酷いな。
人より随分長く生きてはいるが、そこまで老いてるつもりはない」

 不機嫌さを語気に乗せて店主が返すが、拗ねたような態度に半獣はまた笑う。




 「しかし、良く撮れてるな。 お前もいい保護者やってるじゃないか」
 「どちらかと言えばやらされているんだけどね。 僕もそのつもりは無いんだが」

 気が付けば、件の新聞を手に取り優しい笑みを浮かべる半獣がいた。

 「本当に気持ち良さそうに寝ている……そういえば、あの妖怪の賢者もお前の膝で寝たらしいな。そんなにいい枕なのか?」

 途中からニヤニヤと意地の悪い笑みに変わる半獣に、苦い心中を何とか飲み込みどこまで言いふらしているのかと更に頭を抱えたくなる衝動を押さえ込んで、どうにか一矢報いようと口を開く。

 「さあね、来客が増えたのは確かだが」
 「ほう、良かったじゃないか」
 「一見の冷やかしと珍しいものを見に来た妖精を客と呼ぶのなら、だけどね」
 「大した人気じゃないか」
 「……何だったら君も試してみるかい?」
 「なっ……」
 「僕自身は納得がいかないが、良い枕らしいからな」

 思わぬ反撃に動きを止めた半獣に内心でほくそ笑んだ。

 「……記事では随分と不服そうだったようだが?」
 「遠慮する事は無い。 別に出し惜しみするようなものでもなくなったからね」
 「何だかんだと金を取る気じゃないだろうな」
 「まさか、自分を商品にするつもりはないよ」

 店主としては軽い意趣返しのようなもののつもりだったのだが、

 「……………………」

 半獣は僅かに頬を染め、真剣に悩んでいる。

 「確かに安眠出来るとあらば興味がない事もない……いいのか?」
 「あ、ああ……構わないが……」

 意外な反応に思わずこちらも固まりそうになるが、どうにか返事を返して椅子を立った。

 「言っておくが、あくまで子供達相手の参考の為だからな!」

 などと宣いどこかぎこちない動きで付いて来る半獣を肩越しに見やると、やはり不慣れなことはするものではないなと、内心で小さく息を吐くのだった。










 「それでは、失礼する」

 ここに来て尚一言断りを入れてから、半獣は居間の畳の上に胡坐で座る店主の膝に頭を乗せる。
 緊張しているのか動きも表情も硬いが、それは困惑している店主の方も同じである。
 何故こんな事にと頭で考えながらもいつかと同じく手が動くのは、習慣の為せる業であろうか。

 「……ッ!」

 僅かに青味がかった腰まで伸びる銀髪を、肩口の辺りまでゆっくりと梳いていくと、大袈裟にビクつくので非常にやりにくいが、こちらが言い出した以上は手を止める訳にもいかない。
 小さく溜め息を吐くと、店主は絹糸のような髪の手触りに集中する事にした。

 改めて見れば腰まで伸びる髪は淡く青味を帯びており、窓から注ぐ陽射しを受けて艶やかな光沢を返す。
 手櫛を入れれば抵抗も無く滑らかに指の間を抜け、手入れの行き届いた上質さを感じさせた。
 常日頃から身嗜みにも気を配っているお蔭であろうが、それに反して畳の上に広がった様が何とも言えず艶かしい。

 考えてもみれば不本意ながらも今の状況は役得とも言える。 ましてやそれが見目麗しい女性だと言うのだから
光栄だと思うべきだろう。
 いや、逆に店主の人徳の為せる業なのかも知れない。
 どの様に受けとったのかは分からないが店主は人知れず表情を緩め、拳を握り締めたままの半獣の長い髪を撫で続けた。









 「…………なるほど」

 無言の時間が暫く過ぎた後で、不意に半獣がポツリと呟く。

 「これは確かに、心地良いな……」

 いつの間にか体から緊張は伝わってこなくなっていた。 表情はこちらを向いていないので窺う事は出来ないが、声もゆったりと安らいでいる印象を受ける。

 「あの子達の言ってた事も……分かる気がする、な……」


 ――ところで話は変わるが、床屋や美容院で髪を切ってもらっていて眠くなった事はないだろうか?
 誰でも一度は体験した事があると思うがその要因には諸説あり、頭部には無数のツボがあるのでそれを刺激する事によりリラックスして眠気を誘うと言う説や、冒頭で述べたように相手に心を許すことで気持ちが弛緩すると言う説もある。
 また、髪の毛とはそもそも体毛の一種であり、それを撫でると言う事は動物的に言えばグルーミング、毛繕いに相当し、野生動物の間で行われる場合は親愛の表現であり、相手を宥めたりストレスを緩和させる効果があるとされている。
 つまり、髪の毛を撫でると言う行為は本質的に相手の眠気を誘うものである訳だ――


 「……慧音?」

 再び無言になってしまった半獣の名を呼んでみるが反応が無い。
 もしやと思い体を折って顔を覗き込んでみると、案の定目を閉じて小さな寝息を立てていた。
 何となく、自分の膝には本当に安眠の効果や眠気を誘う効果があるのではないかとふざけた考えがよぎるのを
頭を振って追い出し、そのままの体勢で考察を始める。

 寝ているところをただ見られると言う事とは違い、相手の目の前で寝入る、特に体を預けてとなればその相手に自分から無防備な姿を晒す事と同義であり、つまり全幅の信頼を寄せる存在であるという意思表示となる。
 しかし、ここ最近で膝枕をした面々を思い浮かべても、それは当てはまらないような気がする。
 僕自身に害意が無い事は確かであるが、だからと言ってそこまでの信頼を勝ち得ている者ばかりではないはずだ。

 そうすると鍵となるのは膝枕そのものよりも、髪を撫でると言う行為だ。

 これは生理的にも眠気を誘う行為であるが、勿論それだけではない。
 古来より髪の毛、特に女性の長く伸ばしたそれは魔力や魂といったものが宿るとされ、丑の刻参りで藁人形に入れる物としても有名だ。まあこれに関しては単に相手の一部として入手が容易であると言う事が大きいが。
 ともあれこの事から髪の毛は抜け落ちる前から魂との繋がりが強い部分であると言う事が分かるだろう。
 それを撫でる、指で梳く事は『とく』とも読め『解く』に通じる。 つまり心を解きほぐし魂の安寧を促す事となり、結果として眠気を誘う効果を得るのだ。

 何気なく己が手を見る。
 つまりは、自分は人の心のわだかまりを解くのが上手いと言う事か。
 それが手によらず舌先三寸で出来るようになれば、商人としてはこの上ない能力となるのだが。

 そこまで考えて、膝の上の半獣が寝返りをうって仰向けになった。
 何とも安らかな寝顔である。

 ふと、彼女――延いては幻想郷に於いて力ある者達は、このように心安らぐ時間をどれだけ持っているのだろうと考えた。
 博霊神社などで宴会に参加して大いに飲んで騒げば心に溜まるものは発散できるだろう。
 だがそうではなく、あくまで静かに、心を癒すような一時があるのだろうか。

 僕の知る少女達は皆強い。
 だがそれはどれも身体的なもの、能力的なものばかりだ。
 外見に合わぬ齢を重ねたものも多いとは言え、その精神まで強くあるのかどうかは流石に知りようが――

                                                  パシャ


 部屋の中が静かだっただけに、その小さな音は嫌でも耳に入ってしまう。
 反射的の窓の方を見ると、もう既に舞い落ちる黒い羽しか見えなかった。
 撮られた瞬間の構図を考えると流石に笑えないが、だからと言って自分に打てる手立てはない。
 まず間違いなく追いつけないし、逃げた天狗に心当たりはあるもののそれが彼女だと言う確かな証拠を用意できる訳でもない。
 故に妖怪の山へ乗り込んだところで白を切られるのがオチだ。

 その事自体も気に食わないが、考え事を中断させられて気分を削がれたのも腹立たしい。
 かなり投げやりな気持ちになって天井を見上げ大きく息を吐く。

 麗らかな日差しが窓から差し込む絶好の読書日和な室内で、眼下では穏やかな眠る半獣の姿。
 やりきれない想いを抱えながら、もう成るように成れと思って店主はとりあえず再び半獣の髪を手で梳き始めた。





 あくまで、優しい手つきで



























 魔法の森の入り口に居を構える古道具屋香霖堂

 その一風変わった佇まいの店には

 外の世界の変わった商品と

 やはり変わり者の店主がいる

 人も妖怪も容易には立ち寄らざる立地から

 お世辞にも繁盛しているとは言い難い

 おまけに店主は一度語り始めると

 延々と薀蓄と考察を披露してくれる困った人だ

 だが店の商品が珍しいものである事は確かだし

 店主自身語るに足る造詣を備えている

 何より

 静寂と風流を愛する店主が作る空間は

 慣れてしまうとこの上なく居心地が良い

 興味を持たれた方は、一度その店の戸を叩いてみるのも良いだろう

 ――文々。新聞 とある記事からの抜粋



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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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ネットの片隅で主に東方Projectの二次小説を書いている小物。
その癖同人に手を出そうとしたり生放送したりと割りと生意気。

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