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膝枕番外~その日の紅魔館~

 ――何より、膝枕と言うものはお互いに触れ合ったまま長い時間を過ごす事になるので、

 両者の仲をより親密にする効果というものの方が顕著かもしれない――












 夜をこそ我が時間とする種族の者たちの中でも、レミリア・スカーレットの夜は早い。

 日が色づき始めるころには目を覚まし、分厚いカーテンから僅かに漏れる明かりに今日も満足を覚えた。

 メイド長たる十六夜 咲夜を呼べば瞬きの間に馳せ参じ、彼女に身なりを整えさせる。

 それが終わると食堂へ向かい朝食をとる。
 指定席である上座には焼きたてのトーストと湯気の立つスープが用意されており、咲夜が引いた席に着くと同時
に紅茶がカップに注がれた。
 温かみのある芳香に包まれた光景は正に清々しい朝と言った趣だが、我々の感覚では夕餉の支度を考える時間だ。

 まあ、外の光を取り込む窓はまだ締め切られているので余り関係ないのであるが。

 一頻り上品に食べ終えると、二杯目の紅茶を楽しみながらいつの間にか用意されていた文文。新聞を広げる。
 レミリアの容姿ではままごとのように見えるかも知れないが、実際に目の当たりにした者は彼女の放つ気配に違和感など消し飛ぶだろう。
 何とも不可思議な板の付き方である。
 
 「ふぁ……お姉様はいつも早いわね……」
 「貴女が遅いだけよ。 お早う、フラン」
 「お早う御座います、フラン様」
 「うん……お早う……」

 寝ぼけ眼のフランだが、こちらも咲夜が朝の支度を手伝うので身嗜みに乱れはない。
 そのまま席に着き終始だらけっぱなしで朝食をとるのも常である。
 別に低血圧だとかそういうのではなく、幽閉されていた期間に朝も夜もなかったものだからまだ上手く一日と言うリズムを作れていないのだ。

 「何にか面白い記事ってあった?」
 「この新聞にそんな物を求めるのは間違いよ」
 「……じゃあ何で読んでるの?」
 「宵の食後の一時に新聞を読むのは嗜みみたいなものよ。 出来が酷いとは言えまともに新聞を作ってるのは山の天狗だけで、
その中でもこれは一応マシな方だから」
 「ふーん……」

 興味なさげにフランはジャムをたっぷり塗ったトーストを齧る。
 ちなみに彼女の啜る紅茶には始めからミルクがたっぷり入っており、ストレート派のレミリアとよく議論になる。

 「あら」

 そんなフランの様子を横目で見るともなしに見ながら新聞を捲ると、レミリアが小さく声を上げた。

 「どうかしたの?」
 「ちょっとね、これは……へぇ……」
 「何なに?」

 フランと一緒にさり気なく咲夜が身を寄せたその紙面には、香霖堂店主・森近 霖之助の膝を枕に眠る白黒こと霧雨 魔理沙と紅白こと博麗 霊夢を収めた一葉が大きく掲載されていた。
 まあ、モノクロなので魔理沙以外も全員白黒だが。

 「これ、魔理沙と霊夢?」
 「そうみたいね。 しかしあの店主がねぇ……」

 小さく笑みを零しながら写真の傍の記事を読めば、それぞれのコメントも載っている。
 心外そうな霖之助の言葉はさておき、魔理沙と霊夢、それに何故か八雲 紫の感想が書かれていた。
 しかし、各人言いたい放題ではあるが何だかんだで言ってる事は一緒であり、

 「分からないものね、あんな奴が膝枕得意なんて」
 「え、お姉様こいつの事知ってるの?」
 「まあね。 何度かここで買い物してるわ」
 「じゃあその膝枕買ってきて! 私も試してみたい!」
 「あのねぇ……」

 あんまりな発言に呆れた声を出すが、フランはキョトンとしている。

 「膝枕って言うのはそいつの膝を切って持って来ればいいってものじゃないのよ」
 「そうなの?」
 「誰の膝かと言う事よりも、誰にしてもらうかと言う事の方が重要ですわ」
 「と言っても、連れて来ようにも面倒そうなのよねぇ……」

 フランは今一つ膝枕と言うもの自体を理解していないようだ。
 しかし記事の印象からすると素直に店主がここまで来るとも思えない。
 さてどうしようかと悩んだその時、ふと思いつく。

 「って、別に店主を呼ぶ必要もなかったわね」
 「どうなさいますか?」
 「単純な事よ、私の膝を使わせてあげれば良いわ」
 「えぇ~」

 自信ありげなレミリアに反してフランは抗議の声を上げる。

 「ふふっ、そう言ってられるのも今の内よ。 店主のなんかとは別次元の安眠を味わわせてあげるわ」
 「……さっき起きたばっかりなんだけどなぁ」
 「と言うか、店主のそれを試していないので比較のしようがないのでは?」

 フランと咲夜の冷静な突っ込みを、一部の隙もなくレミリアはスルーした。




















 「ちょっとフラン、あんまり動かないでよ。 くすぐったいでしょ」
 「う~……だって、何か落ち着かなくて……」

 ベッドに腰掛けるレミリアの狭い膝の上にフランの小さい頭がちょこんと乗る。
 姉妹の微笑ましい光景に思わず咲夜の頬も綻んだ。

 「まぁ、そうね。 こんな事するのは初めてだものね」
 「あんまり覚えてないなぁ……」

 やや不満そうに呟くフランに微笑みかけながら、レミリアはその柔らかい金髪にそっと指を入れる。

 「ふぁ……」

 初めての感覚に、フランが声にならない声を上げた。
 その事に笑みを深くしつつも、レミリアは尚もフランの髪を撫でる。

 少しすると身じろぎする事もなくなり、緩やかな空気が流れ始める。
 そんな時不意にフランは口を開いた。

 「お姉様」
 「何かしら?」
 「お姉様は私の事、好き?」
 「好きよ」

 唐突な問いに首を傾げながらもレミリアは即答するが、フランその答えで満足しない。

 「本当に?」
 「……ええ、本当よ。 私が好きでもない相手に膝の上を許すと思って?」
 「そっか……」

 普通に考えればこの上ない答えのはずだが、フランの声にはどこか影があった。

 「フランは」
 「え?」
 「フランは私の事、好きかしら?」
 「……嫌いじゃない、とは思う。 でも……」

 言い淀むフランの顔に表情は浮かんでいない。

 「……良く分かんない、自分でも」
 「そう……」

 思わずレミリアの手が止まる。

 考えてみれば長年幽閉され他者との関わりを持たなかったフランにとって、それは当たり前なのかも知れない。
 感情と言うものは基本的に自分以外に向けられるものであり、その触れ合いの中で育まれるものだ。
 だがフランには最近までそれがなかった。
 特殊な環境の中で、不明瞭な自我を形作ることしか出来なかったのだ。

 「でもねフラン」

 ぽつりと、雫が落ちるようにレミリアが言葉を零す。

 「そんなものは、今からでどうにでもなるわ」
 「……そうかな」
 「そうよ、私たちは悠久の時を生きる吸血鬼なのだから、焦る事はないのよ」

 頭を動かしレミリアを見上げるフランの目は、未だ不安に揺れていた。

 「じゃあ私もお姉様の事を好きになる?」
 「それは分からないわ、貴女が決めることだもの」
 「……私は、出来れば好きになりたいかな」
 「なら問題ないわね」
 「どうして?」
 「あら、運命を操るこの私の言うことが信じられない?」

 自信に満ちた笑みを浮かべ、再びフランの髪にそっと手を梳き入れる。


 その光景に、傍で見ていた咲夜が息を呑んだ。


 優しく微笑むレミリアの姿は女神と見紛うばかりであり、吸血鬼の象徴たる禍々しい羽さえも今は神々しいものに映る。
 髪を撫でる手付きはどこまでも慈愛に満ち、柔らかくフランの髪と心を梳かしていく。


 ――串刺し公として名を馳せ、後に吸血鬼のモデルとなったヴラド3世はその経歴から兎角残忍であったと伝えられている。
 しかし一方で東欧周辺に於いてはオスマン帝国の侵攻から独立を守った英雄としても語られている。
 冷徹な統治ではあったが、東方正教からローマカトリックへと改宗するまで領民からの信頼も厚かったのだ。
 吸血鬼は各地の伝承などと相まって悪魔の眷属として認識されるが、ルーツを辿ればその庇護の下にある者からは平穏をもたらす君主足りえる存在であると言える。
 仮にそれが女性の姿であったならばそれが臣民にどう映るかは、言うまでもないだろう――


 いつしか眠りに落ちたフランの髪を、その眠りを妨げぬようそっと撫で続けるレミリア。

 今この瞬間だけは写真機が屋敷にないことを悔やみつつも、咲夜はその光景を心に刻み込むべく見守る事にした。
 
























 「んぅ……」
 「お早う、フラン。 気分はどうかしら?」

 太陽に代わり月が昇って暫く、目を擦りながらフランが身を起こした。

 「うん、すっごく良く眠れた。 ……ちょっと首が痛いけど」

 細い首を捻るとコキコキと音が鳴る。
 クスクスと笑う咲夜にレミリアが眉をひそめた。

 「全く……まあでも、これでフランも納得したわよね」
 「でもまだ霖之助って奴のを試してないからどっちがとか言えないかなー」
 「む……」

 これにはレミリアも難しい顔になる。
 しかしフランが外のものに興味を持つ事は悪いことでもない。

 「分かったわ、それはその内何とかしてあげる」
 「その内っていつ?」
 「私の気が向いたらかしらね」

 更に不平を零そうとしたフランを置いて、すっとベッドの端から立ち上がる。

 「さて、今日は何をしようかしら」
 「あ、お姉様。 今日は暇なの?」
 「有り体に言えばそうね」
 「じゃあ今度は私がお姉様を膝枕してあげる!」
 「あら、それは駄目よ」
 「何で?」

 クルリと振り返ったレミリアは悪戯っぽい笑みを浮かべ、答える。

 「姉妹の間では、膝枕をしてあげられるのは姉の特権だからよ」
 「えぇー、ずるい! じゃあ咲夜は?」
 「誠に光栄では御座いますが……」
 「咲夜も駄目よ、その間誰が仕事を引き受けるというの?」
 「うー……なら美鈴は?」
 「そうねぇ……まあ、本人が了承するなら私は何も言わないわ」
 「じゃあ聞いてくる!」

 言うが早いか、フランは部屋の扉を壊さんばかりに押し開け飛び去った。

 「寝起きだって言うのに元気な事」
 「勢い余ってどこかを壊してないと良いのですが……」

 楽しげなレミリアとため息混じりの咲夜の言葉が静かになった室内に響く。
 と、不意に咲夜はレミリアに向き直る。

 「しかし、店主の件はいかが致しましょう。 攫うのは容易いですが余り得策とは言えませんし」
 「そんな事はしないわよ。 それに連れて来る以外にも方法はあるでしょう」

 言いながら、フランの開け放った扉にどこか遠くを見るような視線を戻した。


 「いつか、あの子が自分から行きたいと言い出した時、責任を持って私が連れて行くわ」
 「……承知致しました」









 それから後、フランの姿が紅魔館の敷地の外で目撃されと言う話はまだ聞かない。

 しかし、もしかすると初の目撃情報は香霖堂で、と言うことになるのかも知れない。






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テーマ : 二次創作:小説
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ネットの片隅で主に東方Projectの二次小説を書いている小物。
その癖同人に手を出そうとしたり生放送したりと割りと生意気。

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